アムウェイに勧誘された話:その3
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前回の続き。僕を乗せて地獄のバスは動き出した。
今でこそわかるが、アムウェイは逃げにくい場所で入会を勧めてくるケースが多かった。
今回の場合はバスの中。しかも高速道路を走っている。
案の定、僕の隣の席にいる怖そうな見た目の人物、通称殺し屋の勧誘が始まった。
「そういえばS(S先輩)からアムウェイ勧められたのに断ったんだって?」
いやぁ・・・まぁ、ハハハ・・・。
無難な答えでかわしたが、殺し屋は意外なことを言ってきた。
「まぁわかるよ。俺も最初うさんくせーなーって思ったもん」
あれ?この人、案外話がわかるかも・・・。
「でもさ」
でもさ・・・・?
「自分が経験していないのに否定するのはナンセンスだなって思って始めてみたんだよ。そしたらモノも良いし稼げるしいいことばっかだったよ。結局ネットの評価なんて全部嘘だったんだよ」
あぁ・・・そうなんすね・・・。
「確かにアムウェイを始めてから昔の友達とは連絡を取らなくなったけど、このくらいで関係が切れるようなら本当の友達じゃなかったんだなって思った。今ここにいる意識高いやつらが俺の本当の仲間だ。ケイタくんもそんな仲間ほしいだろ?」
ソウスネ・・・。
僕は感情を失っていたし、何ならちょっとイライラしていた。
今まで関わってきた友達はダサいヤツら、と言われているような気がした。殺し屋は僕の友達の何を知ってるんだ。
しかし殺し屋はどんどん魅力を説明してくる。もう許してほしい。
後から知ったが、アムウェイをやってる当人達は、怪しいと思われてる事は百も承知らしい。
そのため、あえて最初に「確かに怪しいよね」と自ら言う事によって警戒心を解くのか常用手段らしい。
しかしなぜアムウェイをやってる人は目が死んでるんだろう。
口では「幸せ」「仲間」とは言ってるけど、本当に幸せな様には思えなかった。
これって無理に幸せだって思おうとしてるんじゃないか。
これがアムウェイを怪しい宗教みたいに思う一番の理由だ。
確かに自分が良いと思うモノは他人に勧めるだろう。
僕だって自分が良いと思ってるモノは他人に勧める。
でもなんか違う。上手く言えないけどなんか違う気がするんだよ。
こんな逃げられない状況で、自分だけ仲間がたくさんいる状況で一方的に言われるのはフェアじゃない。
僕はこの鬼の勧誘タイムを2時間耐えた。人生で一番堪えた瞬間だ。1日に親知らずを二本抜いた時よりも耐えた。
雪山にバスが着いた後はみんなでウェアに着替え、スノボーが始まった。
ちなみにこのスノボー、合宿かな?って思うくらいスパルタで、一日中滑っていた。この日だけで2万回転んだし、お尻は割れた。
僕にはS先輩が付きっきりで教えてくれたのだけど、プロに教えてもらったおかげで僕はめちゃくちゃ上手くなった。
運動神経が悪い僕が今でもスノボーを人並みに滑れるのは間違いなくこれがきっかけだと思う。そのことだけはすごい感謝している。
辺りも暗くなった頃にスノボーも切り上げて宿に移動した後は、みんなで酒を飲みながらパーティが始まった。
アムウェイが主催するパーティは基本的に割り勘だった。
アムウェイってトップの人になると金持ってて不労取得最高!なコンセプトじゃなかったけ?って疑問を持つくらいどんなゲストに対しても割り勘だ。奢ってほしい。
そして本当の地獄はここからだった。
パーティの最中に、幹事のサングラスケミストリー掛けマンが立ち上がり、こう叫んだ。
「よしみんな!今日は初めましての人がたくさんいると思うから一人ずつ自己紹介しよう!」
まぁ自己紹介くらいならしてもいいか・・・。
「ただし、」
えっ?
「みんなが持ってる夢を大きな声で教えてくれ!みんなで夢を共有しよう!」
あぁ・・・・本当にいやだ・・・。
えっ、こんなん本当にあるの・・・?完全にジーザスなんですけど。
僕がマゴマゴしてたら斜め前にいた女性がスクッと立ち上がり、自己紹介という名の壮大なスピーチを始めた。
えっ?先着で自己申告制なの・・・?
「わたしの名前は〇〇です!夢は・・・△△になることです!なぜならわたしは小さいころ家族に恵まれず大変な思いばかりしてきました。不幸だったわたしは自殺も考えていましたが、その時出会ったのがそこにいる□□さんでした・・・!□□さん!わたしを変えてくれてありがとうございます!生まれてきてよかった・・・!!!」
大体が原文ママであるし、実際はもうちょっと長い。何か怖かった。
結論から言うと、この飲み会はこのスピーチタイムがほぼメインだった。もう本当に嫌。
そしてみんな大体、逆境を乗り越えた先にある今のわたし最高!という内容だった。もう嫌。
クソスピーチが終わるたびにみんなお面みたいな笑顔で拍手喝采だ。汚い居酒屋に連れてって全員に電気ブラン飲ませて吐かせたい。
僕は相変わらず顔面蒼白だった。もう本当やだ。
本当にやりたくない。
僕だって友達と夢を語り合ったりするけどさ、語る相手は選ぶよ。何かわからないけどこの人らには絶対話したくない。
内心めちゃくちゃむかついていたが、フと奥に視線を向けると、僕と同じように顔面蒼白になっている男性と女性が何人かいた。
あれ?この人らもしかして僕と同じ・・・?
僕はさりげなくその人らに近づいた。
あの・・・すみません、もしかしてあなたも誰かに連れられてきました?
僕が話しかけたその女性は「そうなんです・・・これってアレですよね・・・?」
別にこの状況をどうこう出来るわけじゃないが、同じ境遇の人と会うことで少し救われた気がした。
何ならこの人達と飲みに行きたい。
そうこうしてる間にもスピーチは進んでいく。
どうしようどうしよう、やりたくない、やりたくなさすぎる。
スピーチやりたくない芸人となった僕は必殺技を使うことにした。
スーパー酔いつぶれたフリだ。
幸いなことに僕はお酒を飲むとすぐに顔が赤くなる。
ビールを1本くらいしか飲んでなかったけど、机に突っ伏してみた。
するとS先輩が声をかけてくれた。
「おーい、ケイタ大丈夫?隣の部屋に布団敷いてあるからそこで寝な?」
作戦は成功した。S先輩優しい。
全然眠くないし、酔ってもなかったが、布団が敷いてある寝室に移動して横になった瞬間安心したのか爆睡した。スヤスヤだった。
翌日の朝。
みんなで朝食を食べながら、別の人からまたアムアムのウェイ(ゴムゴムのピストルの発音)の入会を勧められる。黙ってご飯食べなさい!!!このうんちが!!!!
うんちの話をのらりくらりとかわし、この日もスノボーを一日中やった。
この日は色んな人から「このサプリ飲むと筋肉痛治るから飲んで!」と言われた。登場人物全員がサプリガチャだった。いくらリセマラしても一生Sランクなんて出ない。
話しかけられたくないから無心でスノボーをやってたらめちゃくちゃ上手くなっていた。
気づいたら辺りも暗くなって、やっと帰る時間となった。
帰りのバスの中も隣の席は殺し屋だった。ドリンクホルダーにアムウェイの水筒置くのやめろ。これと変えるぞ。
↓これ
そして案の定、入会を勧められる。水筒に入ってるのはamwayが売ってる水らしい。自分の環境は水と空気で変えることができるとか言ってた。
一瞬、「わかった、入る。入るからもうほっといてほしい。」って言ったら許してくれるかな、と思うくらい参った。
東京に着くまでの暇つぶしで、僕は自分の舌で自分の歯を触って歯が何本生えてるか数える遊びをずっとやって過ごした。
バスが東京に着いたと同時に僕はすぐに帰って、S先輩とはその後距離を置いた。
ちなみにこのスノボーパーティに確か3万円くらい払った。
もう絶対amwayの集まりには行かない。
そう決意する僕だったが、半年後に新たに現れた刺客によって、またまんまと騙される事になるのであった。
続く。