アムウェイに勧誘された話
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ここ3,4年は勧誘されていないが、20歳前後がカモのピークだった。
僕の母親も昔は色んな怪しいものに勧誘されていたみたいだ。 芹沢家は気が弱く見えるし押せば何とかなると思われているんだろう。
実際に気は弱いんだけど、僕も母もこういううさんくさいものに対してはスパッと断ることができる性格だった。
そんな僕だけど、過去にアムウェイに4回、ニュースキンに1回誘われたことがある。話しかけやすい顔グランプリ第1位といっても過言ではない程の実力だ。
僕の記念すべき勧誘第1回目は、バイトの先輩からだった。 名前をS先輩とする。
S先輩はバイト中にちょくちょくサプリを飲んでいた。
毎回、「これめっちゃ良いんだよね~」とかわざわざ僕に言ってきた。
ある日、S先輩は僕に声をかけてきた。
「お前に会わせたい人がいるから今度時間作ってよ。俺が尊敬する人なんだ。」
僕はS先輩の事が大好きだったし、 そのS先輩が尊敬する人なら是非会いたいと思った。
その後、S先輩はバイトを上がった。
僕とS先輩が話していた光景を見ていたバイト仲間が僕にコソッと言ってきた。
「S先輩、アムウェイやってるから気をつけた方がいいよ」
え?うん?わかった。
僕は一応返事をしたけど、実はこの時アムウェイという存在自体を知らなかった。 何ならマルチ商法やねずみ講という言葉の意味も知らなかった。何か強そう、とさえ思っていた。
特に気にすることなく時は流れていき、ついにそのS先輩が尊敬する人と会う日が訪れた。
指定された場所にS先輩と一緒に行くと、おっきな一軒家があった。綺麗な車も止まってる。
その家の前に着いて、S先輩はインターフォンを押した。
「師匠お疲れ様です!着きました。Sです!」
師匠て。
ドアのカギがガチャッと開いて、S先輩が師匠と呼ぶ人物が出てきた。肌が小麦色に焼けたロン毛のおじちゃんだった。ゴローズのネックレス付けてた。
師匠は僕達に「よく来たね」と微笑み、家の中に招いてくれた。
S先輩は僕のことを師匠に紹介してくれた。
「ケイタは大きな夢を持ってるから僕達でサポートしてあげたくて・・・。」
S先輩は真剣な目で師匠にそう言った。
師匠も真剣な目でこう言った。
「そうか・・・。熱い男は好きだよ。よし!じゃあ、始めようか。」
え?
僕がキョトンとしていると、 師匠は奥の方からカゴを出してきた。
S先輩は後ろに下がり、ポケットからメモをサッと取りだした。勉強する構えをしていた。
師匠が持ってきたカゴの中には「汚れた食器」「2種類の洗剤」「ペットボトルに入った水」が入っていた。
何これ、何始まるんだ。通販?
師匠はゆっくりと口を開いた。
「ここに汚れた食器がある。半分に市販されている洗剤をかけて、もう半分にこの独自の洗剤をかけた後に水を流してみよう。すると・・・」
水を流した後、独自の洗剤をかけた方の汚れだけが綺麗に取れた。
「どう?」
すごいです・・・。
僕は真顔でそう答えたと同時に何か違和感を覚えた。
本当に何これ?
僕この人と初対面だよね? そんでS先輩は何をメモ取ってるの?
確かにさ、今僕が目の前で見せられているこの洗剤は本当にいいものなのかもしれない。
でも普通初対面の人に洗剤売るか?
マトモな大人が出会って5分後に洗剤の違いを説明するか? あっこの人マトモじゃねーなさては!!
改めて、俯瞰して今の状況を見てみると僕は完全にカモだ。
師匠は、洗剤の違いを僕に見せた後、誇らしげにフンスッと鼻息を飛ばしながら僕にこう言ってきた。
「この洗剤を手に入れることが出来るのは、アムウェイに入った者だけだよ。アムウェイって聞くとちょっと良い印象は無いかもしれない。ただ、成功すればお金持ちになることができる。俺みたいに良い家に住めるし、良い車にも乗れる。どうだ?入るだろ?」
ちょっと言葉は変えたが、こんな感じのニュアンスだった。
アムウェイ?なんで洗剤買ったら金持ちになるんだ?
僕は純粋な疑問があったので聞いてみた。
「アムウェイって何ですか?」
師匠もS先輩も、えっアムウェイ知らんの?って顔してる。
その後に師匠からアムウェイの仕組みを説明してもらった。
僕は何の考えも無く、すごいっすねそれ!と答えた。
だけどこの答え方がめちゃめちゃ失敗だった。
師匠は、こいつ落とせる!と思ったのだろう。
説得に熱が入り始めた。
ついでに何か熱い事も言い始めた。
「夢は逃げない!逃げるのはいつもお前なんだ!」
「夢叶えたいだろう!?」
どこかで聞いたことある名言を、自分が考えたみたいな顔しながら言ってきた。
師匠の目がイキイキとし始めたと同時に僕は、さっき「すごいっすね!」と言った事を後悔し始めた。
「はぁ・・・なるほど・・・」
「そうなんですね・・・すごい・・・なるほど・・・」
僕はうつろな顔をしながら上記の言葉をつぶやきはじめるようになった。壊れたbotだ。
ちなみに空返事で「なるほど」っていうヤツは大体話を聞いてない。
師匠からしたら意味わからないだろう。
さっきは笑顔で、すごいっすねそれ!って言ったやつが途端に元気が無くなってなるほどしか言わなくなったのだから。
それが1時間くらい続いた。
S先輩も、師匠も、僕も、この場にいる全員が「えっ何この時間」って感じていたと思う。
疲れてきたし、僕は場を荒立てることなく帰ることにしたい。
何か良い帰り方は無いだろうか・・・。
うーん、何て言おうかな・・・。
師匠はなかなか決断しない僕にイライラし始めているようだ。
S先輩はイライラしている師匠を見てソワソワしていた。多分後で怒られるのかもしれない。
あっとりあえず何か発言しないと。
「やっ、あの、ちょっ、帰ります。」
帰り方が下手だった。
S先輩と師匠は目を見開いて僕を見た。
言葉は発してなかったけど「なんでだよ?!」って顔してた。
師匠は焦ったのかその後、他の商品の良さを実演し始めた。
僕はその度に、 「やっ、あの、ちょっ、帰ります。」と言った。bot再びだった。
その後しばらくして師匠はフーッとため息をついてこう言った。
「俺が直々に説明しているのにここまで響かないやつは初めてだよ」
真のボスみたいなこと言い出した。
無能扱いされた事は悲しかったが、相手の心が折れ始めた。チャンスだ。
あの・・・お時間作っていただいてこういうのもアレなんですが、僕は契約する気はないです。もう帰りますね。
ビクビクしながら荷物を取って、相手の返事を待つ前に僕は帰った。
帰りに電車の中で、アムウェイについて調べたら悪評だらけだった。
そういうものが世の中にあるのか・・・。勉強になった。
翌日、S先輩とバイト場で遭遇した。
S先輩は「昨日は悪かったね。また俺と遊んでね。」と言ってくれた。
僕はS先輩の事はまだ好きだったので、 全然気にしないで下さい!もちろんですよ~!と答えた。
何もアムウェイやってる人全てが悪いわけじゃない。
S先輩と縁を切る必要なんてないよ。
しかしまたS先輩に騙される事なんてこの時は思ってもいなかった。
それは後日書こうと思う。
追記:書いたで↓